得手不得手。
誰にでも、あるものだ。
「……僕にどうしろって言うんですか…。」
とある町のとある通りの片隅で。
珍しく、途方に暮れているヴァルクスの姿があった。
彼の前には、声を殺して泣きじゃくる幼い少年――おそらく5歳にも満たない年齢だろう――が。
通りを歩いていたヴァルクスに、横道から少年が出てきてぶつかって。
体格差でぶつかった少年の方が跳ね飛ばされて、しりもちをつく形になって。
謝罪を述べつつ、手を差し伸ばして助け起こそうとした矢先、泣かれて。そのまま、現在に至る。
少年が一人でいるところを見ると、おそらく迷子なのだろうが。
そういった事情をさっぱり聞き出せないので、どうしたものか。
大丈夫ですか?と聞いたり、軽く頭をなでたりしてみるものの、どうにも泣き止む気配はない。
(本当に、僕はこう言うことが苦手ですね…。)
この場合は、おそらくその内心の困惑が、慰め切れていない原因になっているのだが。
ヴァルクスは、そのことに気づけていないようで。
(尤も、僕もこの町に詳しいわけじゃないんですよね…。)
思考は少年を半ば置いてけぼりにして進む。
考えごとをするときの癖で、尻尾が左右に揺れ始めて。
ぎゅ。
「…おや?」
尻尾を掴まれた感触に、振り向けば、ヴァルクスの狐の尻尾を掴む少年の姿が。
「えぇと……。」
何故だか知らないが、泣き止んでくれたらしい。
だが、この状況では他の誰かに任せると言うことにも行きそうになく。
結局ヴァルクスは、買出しを中断して、少年の親探しに1時間ほど費やす事になったのだった。
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